バッハは平均律クラヴィア集で、すべての音階で長調と単調の24の曲を作りました。なぜわざわざこんなことをしたのかどこにも記録はありません。きっと、当時は平均律以外の音階が主流でしたから、平均律で調律したクラヴィアが本当にすべての音階で和音を作れるのか試したのでしょう。または、この曲で、平均律のすごさを世の中に広めたかったのかもしれません。

「ケーナは音程の合わない楽器」「平均律では調整できない楽器」この思い込みを直してくれたのは、河辺晃吉さんのケーナを吹いてからです。
(※1)川辺さんのケーナはどの音域もピッタリと音程が合います。チューナの針が真ん中からまったく動きません。壊れているのでは?と思ったほどです。やはりこの楽器は一流の奏者でないと調整できないのかな?

平凡な奏者がよい音程の楽器を作るには?・・・・。基本から考え直さなければ・・・。

つい最近まで、私の作るケーナの成功率は30%を切っていました。これは、内径を加工せずに、内径の状態をみながら指穴の位置を決め、吹いてみてずれた場合には指穴と穴裏加工で調整していました。

日々違う素材ごとに穴の位置と大きさを変え、穴の裏を削ったりしながら音を合わせようというのは合理的ではないのでは?このやり方ですと、どこかに破綻が出てきます。ひとつの音を合わせるたびに、全体が揺らいでゆきました。

1オクターブ目がしっかりとしていれば、2オクターブめも合うはずです。合わない場合のほうがおかしいのです。おかしい場所があるならば、それは内径の変化です。

1オクターブめが合ったならば、オクターブ間のズレは、指穴で合わせずに、内径を削ることで合わせるべきなのではないかと思っています。そのためには、上の3つの穴と5つめの穴の大きさはそろえたい。(大きさが変わると開口端補正値
(※2)が変わってきます。気流の変化によって変わる音程の上下をそろえるためです。)穴の位置も計算される歌口からの距離から大きくはなさないようにしたい。

問題は、ケーナの開口端補正の値がしっかりわからないことです。内径が太くなると同じ長さでも音が下がることはみんなが知っています。これは、周波数の計算では説明できない現象なのです。これも、開口端補正値の変数のひとつです。

値が定数でないことは分かります。だれかが測定しないといつまでたってもケーナ作りは感まかせになってしまいそうです。篠笛では、データーをHPで公開されている方がいらっしゃり、驚かされます。
(※3)篠笛のデーターで見る限り、ほぼ直管で、管尻に向かいほんの少しのテーパーがかかっているほうがよいようです。

ケーナを作っている感覚とも一致する結果です。竹そのままのテーパーではオクターブが驚くほど狂いますし、完全な直管の塩ビ管でも低音で和音を作ると、妙なうねりを感じます。

ケーナは、ピアノなのど固定された周波数の楽器と演奏したり、複数のケーナを使ったアンサンブルなどの演奏形態の歴史がありませんでした。このため、どんな音階を使うかといった概念もありません。それは悪いことではなく、ゆらいでいる音程は素朴さや温かみといった結果をうみ、ケーナの魅力でもあります。

ケーナのバリエーションのひとつとして、平均律を意識したケーナの設計ができたらいいと思っています。バッハのまねはできませんが、いくつかの調で他の楽器と簡単にアンサンブルができるケーナがコンスタントに作るのが夢です。


 
return home
※1  河辺晃吉 1940年(S15年)、埼玉県浦和生れ。育ちは東京と鎌倉。神奈川県立鎌倉高校卒、国立音大器楽科(フルート)に入るもアルバイトが過ぎて除籍となる。(河辺晃吉Web Siteより抜粋)

※1 開口端補正値:管尻の周辺の空気の流れが音程に影響を与えるため、計算された管の長さにプラスされる値 

※2 中根東八幡社神楽HP
笛の製作の中に、補正値以外にもとても貴重な考察が掲載されています。ぜひご覧ください。