完全な和音を求め、完全な長3和音、短3和音で音階を作りと、完全純正律という音階になります。とてもきれいな和音ができますが、調を移動させても和音を作ろうとすると、ド♯とレ♭を別の音にしなければならず、オクターブの中に音が20個も出現してしまい、楽器になりません。

ピタゴラス律では旋律しか表現できず、完全純正律では移調できません。調を変えても和音を作るためにその後たくさんの音階が出現したようです。そしてたどり着いたのが平均律です。

平均律は1オクターブを1200セントという単位で表します。そして半音の間隔を100セントですべてそろえてあります。これで調律された楽器は、すべての和音がすべての調で問題なくなります。しかし、オクターブ以外の音は完全な和音にはなりませんから、ほんの少しのうねりが生じます。

ほんの少しの不完全に目をつぶって、全体を完全に近づけた音階ともいえます。

では、ケーナはどんな音階で調整したらいいのでしょう。西洋楽器と同じ土俵に上がるために平均律?旋律を美しくするためにピタゴラス律?完璧なアンサンブルを求めて純正律?

答えは・・・・・
どれでもいい、というのが私の考えです。ピアノやリコーダーならともかく、ケーナという楽器は吹きようでどんどん音程が変わります。平均律でなくても、どうせ♯も♭も3つくらいまでしか対応できません。調の違う楽器でアンサンブルをすることもまずありません。
半音だって、穴の半開で出しています。

平均律は、どんな移調にも対応し、すべての和音がきれいに聞こえるための、宗教です。教義を広げるために西洋楽器という十字軍を世界に派遣しました。そのために楽器にはいろいろなキーで武装し、半音やトリルにもすべて対応しています。

教義を持たない各地の音楽は、平均律に占領されてしまいました。気が付けば、世界は平均律一色です。ボリビアの工房でも、平均律で調整されたチューナーを使い、知らない間にA440の洗礼をすべてのケーナに与えています。

それでも、ケーナで和音のうねりを気にしたり、♯5つの練習している方は少ないのでは。完璧な和音やスケールの多様性は西洋音楽の教義です。音楽の宗派が違うひとは、そんなに気にしなくていいかもしれません。

私は平均律を意識してケーナを作ります。矛盾しているようですが、単純にメロディーラインを吹くだけの楽器にしてはもったいない。簡単なアンサンブルくらいはできないと、楽器としては肩身が狭い、と思うからです。楽器に音程のすべてを任せるのはむりですが、奏者にすべてをまかせる楽器というのも無責任です。

突き詰めると、木製のケーナに半音用のキーをつけたり、トリル用のキーをつけたくなります。でも、それはしちゃいけませんね。それよりも、純正律でその調だけしか吹けないケーナを作ってアンサンブルするのは、とても贅沢ですね。やってみたい。
 
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