管楽器を吹くときは複式呼吸です。これは誰でも知っています。でも、腹式呼吸ってなんですか?なぜ胸式ではいけないんですか?息は肺でするのに、お腹は関係ないでしょ?

答えも誰でも知っています。高い圧力を保つため、音を響かせるため。でも、なぜか?については誰も教えてくれません。

腹式といいますが、お腹は関係ありません。呼吸は肺ですから、肺を効率よく仕事させるための呼吸方法のことです。主役は腹筋ではなく横隔膜です。

横隔膜は肺の下部を支持しています。レントゲンの黒い部分は肺です。(図1)オレンジ色の部分が吸気時の横隔膜、緑が呼気時の横隔膜です。左右の肺と横隔膜に囲まれた白い部分は心臓です。
(※1)

人は普通の呼吸をしているときは、肺の容量の半分も使っていません。それは、肺の周囲が硬い肋骨で囲まれているため肺の上の部分を使っている限りは、入る空気の量には限界があります。

上部の容量は限界があるため、それ以上は肺の下部を使わなくてはいけません。そこにあるのは横隔膜です。普通に息を吸えば、(図1)オレンジの線までですが、それをさらに下まで下げることで容量を確保できます。

横隔膜は膜ではなく。厚い筋肉の板だとうことが写真から分かっていただけると思います。この筋肉を意識して使うことが、効率のよい呼吸法の練習になります。(図2)

お腹を膨らませることにより、腹腔内を陰圧にし二次的に横隔膜を下に下げることができます。このため、腹式という言葉になったのでしょう。そうではなく、肋骨の下側を広げるイメージが正しいと思います。

こうすると、横隔膜に直接力がかかっているのがわかります。お腹は出すのではなく、横隔膜を下げることでしかたなく出てきてしまうのです。横隔膜は緊張すると真っ直ぐになり息を吸い込めます。しかし、息を吐くときには弛緩するため、大きな力を出せません。このため腹筋の力や胸の筋肉のバランスも大切です。筋肉では、腹筋よりも、腹横筋という肋骨の内側で囲むように付いている筋肉が重要です。これは腹筋運動では鍛えられません。

腹筋を硬くして吹いたり、意識的にお腹を出したりするのは、悪い方向に向かいそうです。肋骨の下を広げ、横隔膜を十分に上下させるような運動が、横隔膜と腹横筋を鍛えます。この方法については、次回に。

腹式呼吸ができると、まず肺の容量が増えます。これだけで、息の流れは安定します。筋肉で出来ている心臓にはフランクスターリングの法則というものがあります。これは、心臓はある一定の圧力がかからないと有効な収縮力が得られないというものです。肺も同じです。たくさんの空気が入ってはじめて、強い収縮ができるのです。(図3)

ケーナでは、フレーズ最初では高い音が簡単に出るのに、息が足りなくなってくると、高い音が出なくなりますよね。それは、こういう理由からです。

次に音の響きの違いが出ます。ケーナの歌口の振動はケーナの内部竹の長さに応じた定在波となり雑音でなく一つの音程をベースとした倍音を作ります。
そこまでは「倍音とは」の中で書きました。

さらに、歌口の反対側には、もう一つの管があります。それは気管と肺です。肺自体は袋ではなく、海綿状の構造体ですから通常は響きには関係ありません。しかし、腹式呼吸により十分に膨らまされた肺は、実質よりも呼気の体積が大きくなるため、定在波の発生に十分に関与できる構造になります。、口腔と気管支と肺はフラスコ状の形を作るのです。豊かな音を響かせるためには。この形がたても大切になります。

息の安定、強さ、表現力、どれも腹式呼吸でしか手に入れることはできません。それ以外にも、腹式呼吸は健康にもいいそうですよ。
(※2)

ケーナを吹いて健康増進しましょう。






 
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※1 北京大学 医学講座の中に横隔膜の図がのっています。肺和横隔膜というところをクリックしてください。
※2 あなたの健康百科
腹式呼吸がセロトニン神経を活性化するらしい。セロトニンと健康の関係については述べられてはいない。また参照文献もない。
(図1) 胸部レントゲン
(図2) 焼肉用横隔膜       別名:ハラミ
(図3) フランク・スターリングの法則
生理的な範囲内では、拡張終期の心筋線維の伸展が高いほど、一回拍出量が高くなるという、循環器では超有名な法則。

これを肺に当てはめると、肺容量を大きくすると、息の圧力を高めることがわかります。