本日もまた呼吸のお話です。管楽器の呼吸法にはいろいろは表現方法があることは以前にも書きました。どれもが有効な伝え方ですが、どれも具体的なイメージに欠けるのが難点です。なぜ、特別な表現をしなければ管楽器の呼吸法教えられないのでしょうか。

一番の問題は、一般的な呼吸器のイメージと、実際の臓器の位置形がずれているからではないでしょうか。実際とは違うイメージではなかなか先生の意図は伝わりません。

そこで、解剖学的見地から呼吸器の確認をしてみましょう。

まず、歌口に一番近い場所。口腔です。空間を作りやすいように口腔上部はアーチ形になっています。図にあるように舌はとても大きな筋肉で、その形を変えることで口腔内の容積を大きく変化させることができます。あごの下には骨はなく、舌の筋肉を下げることでさらに大きな空間を確保することもできます。(図1)

のどを触って、ゴリゴリしている部分が気管です。この部分を食道と間違えている方がいますが、食堂は気管の奥に普段は小さくなって控えています。想像よりも太く大きな器官です。「のどを開けて吹く」というのは、この気道の容積を確保しましょう、ということです。

気管が首の奥に位置していると想像すると、気管はいつも開いていると思ってしまいますが、実は一番前についており、首の角度の影響を受けやすいことがわかります。特に太っている方は、軽く首を引いただけで、気管が折れ容積が減ります。

この部分が折れ曲がると、ヘルムホルツ共鳴法則のでいうボトルの首の部分の体積が減ることになり、肺の容積を生かした共鳴ができなくなります。振動を共鳴しやすくするためにも、大きく曲げたり、狭窄させないようにします。このため、演奏の姿勢が大切になります。

「姿勢はまっすぐに、力を抜いて」もよく言われますが、こんなことも関係しています。

首の内側を通っている脊柱も間違うことの多い器官です。(図2)背中から触ることのできる骨は、棘突起という部分です椎弓根があり、その先に脊柱管という神経が通る穴があいており、体の圧力をささえる背骨(錐体)といわれる部分は、さらにその先に位置しています。(全部ひっくるめて背骨ともいえますが、今回は体重を支える場所を背骨といいます)

背骨(椎体)は、一般に考えられているよりも体の内側にあります。これは、管楽器を吹くときに、まっすぐに立つことを教わりますが、そのときのイメージに大切なことだと思います。

また、肺の位置と形も誤解の多い場所です。(図3)
一般に肺は平べったく、胸の前面に位置している臓器のように思われていますが、実は、とても立体的で大きな臓器です。
人間の体で、みぞおちから上には、心臓と肺しかありません。心臓は握りこぶしほどの大きさしかありませんから、体の半分は肺がと思ってもよいほどです。レントゲン写真をみても、肺は背骨の裏側まで回りこみ背中まで達していることがわかると思います。

この巨大な肺をうまく働かせるために、呼吸を背中から入れるというような比ゆが生まれたのだと思います。

こんなことを知ってどうするのか?と思われる方も多いと思います。でも、管楽器の呼吸を覚えるには、呼吸器の正しい位置と形がわかっていたほうが、先生のアドバイスがづーっとよくわかると思います。

小川堅二さんの提唱されている、音程により容積を調整する共鳴法も、正しいイメージがあれば実践しやすくなると思います。きっとお役に立つ日がきますから、ぜひ見直してみてください。



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図3
肺は上半身の多くの部分を占める大きな臓器です 前面だけにあるのではなく、背中まで達しています

真ん中にあるのは心臓 椎体は心臓と接するほど中心に近いのがわかります
図1
のどの前側は気管 舌は大きな筋肉
図2
体重をささえる椎体は、思ったよりも体の内側を通っています